糖尿病について

はじめに

当クリニックで専門診療を行っている「糖尿病」という病気をご存知でしょうか。
最近では、テレビ番組などでも取り上げられるので、多くの方は名前だけでも耳にしたことがあると思います。しかし、この「糖尿病」がどういう病気なのか? 知られているようで十分に知られていないが故に、本来なら良くなるはずの病気がそうならないこともあります。また、もし貴方が「糖尿病」になってしまったらどうでしょうか? 不安だ、つらい、悔しい、恥ずかしい… 感じるところは人それぞれかと思います。
このページでは、まずこの「糖尿病」についてみんなで知ることから始めたいと思います。

  1. 「他人ごと」ではなく「多人ごと」

  2. 「足りない」ことで生じる病気

  3.  糖尿病の型-主な2つのタイプ

  4.  自分には思い当たる節が無いのに…どうして?

  5.  血糖値が高い、体調は何ともない、けれども…

  6.  糖尿病かどうかの診断は?

  7.  糖尿病はどう治療するの?

  8.  糖尿病でとくに気を付けるべきことは?

  9.  糖尿病の治療や通院を中断してしまった方へ

「他人ごと」ではなく「多人ごと」

厚生労働省の国民健康・栄養調査では、我が国の糖尿病患者は1997(平成9)年の時点では690万人、糖尿病の可能性がある人は680万人でしたが、2016(平成28)年の調査では糖尿病患者1000万人、可能性がある人も1000万人となっており、あわせて2000万人、「日本人の6人に1人」が糖尿病もしくはその予備軍となっております。あなた自身もしくは身近な誰かが「糖尿病とつながっている」可能性があるといっても過言ではないのです。

「足りない」ことで生じる病気

私たちヒトも含めて多くの生き物は、食物を食べて生きるためのエネルギーを得ています。「糖質(炭水化物)」「たんぱく質」「脂質」という三大栄養素の中でも、糖質は最も重要なエネルギー源です。それは、体内で速くかつ効率よくエネルギーになることができ、かつ脳や神経が唯一エネルギー源にすることができるためです。
食物中の糖は、小腸から吸収され、肝臓を経て血液に入り(血液中の糖が「血糖」です)、全身の細胞・臓器に行きわたります。余分な糖は「グリコーゲン」として、肝臓や筋肉中に蓄えられるほか、脂質に姿を変えて脂肪細胞内で貯蔵されます。
こうした流れの中で必要不可欠な物質があります。それは、おなかのちょうど真ん中にある「すい臓(膵臓)」で産生される「インスリン」というホルモンです。血液中の糖は、インスリンが存在していることではじめて細胞の中に取り入れられ、エネルギー源になることができるのです。インスリンの量・働きともに十分であれば、血液中の糖を必要なだけ細胞に取り入れることができますが、インスリンが足りない、働きが十分でない(あるいはその両方)場合は、糖が細胞に取り込まれず血液中にたまっていき、その結果血糖値が上昇していきます。
インスリンの量や働きが足りないために、生きるためのエネルギーを正常に作れない、すなわち「足りない」ことで生じる病気が「糖尿病」です。また、過剰になった血糖や、その他の物質の代謝障害などが、様々な弊害(合併症)の引き金になってしまいます。

糖尿病の型-主な2つのタイプ

糖尿病にもいくつかのタイプ(型)が存在しますが、主なものを2つ挙げると
①1型糖尿病
糖尿病全体の約4~5%を占め、すい臓のインスリンをつくる細胞が早い段階で破壊され、体内のインスリンが著しく不足してしまうことで起こる糖尿病です。そうした細胞の破壊は、免疫機構の異常やウイルス感染が引き金であると推測されていますが、詳細は未だ明らかで無い部分もあります。幼少期~比較的若年で発病することが多く、生活習慣との関連はありません。
足りなくなったインスリンを注射で毎日補うことが現時点で唯一の治療法ですが、破壊されたインスリン産生細胞を再生医療で蘇らせるなどの研究も進められています。
②2型糖尿病
糖尿病患者の約95%と、最も多くを占めています。すい臓からインスリンは産生されていても量が不十分、あるいはインスリンの働きが低下しているために起こります。糖尿病を発病しやすい体質、または遺伝的要素が背景にある人に、加齢・ストレス・生活習慣など複数の要因が重なって発病すると考えられており、発病時期は成人~老年期が多いですが、若い人にも見受けられます。

自分には思い当たる節が無いのに…どうして?

2型糖尿病の発病に生活習慣や遺伝素因が関わっていることはよくありますが、「思い当たる節が無い」と仰る2型患者さんも数々みてきました。
はるか昔、人類は飢餓に耐え忍ぶために、食物から得たエネルギーを体内に蓄積させる機構を遺伝子レベルで身に付けました。それは「飢餓遺伝子」「倹約遺伝子」などと呼ばれ、現代人にもそのまま引き継がれていますが、日本人のおよそ4割がこの遺伝子を持っているとも言われており、この現代社会においてはたとえ血縁者に糖尿病の人がいなくても発病する恐れは誰にでもあるのです。

血糖値が高い、体調は何ともない、けれども…

糖尿病は多くの場合、発病してからしばらくの間は自覚症状がほぼありません。しかし、高血糖がある程度以上に、継続して生じていると、のどの渇き、トイレが近い・尿量が多い、ダイエットしていないのに体重が減る、すぐにお腹が空く、疲れやすくなる、こむら返りがよく起こる、目がかすむなどの症状が出現しやすくなります(逆に、これらを自覚している場合は、糖尿病としての病状がある程度以上に進行している可能性もあります。)
慢性的な高血糖は全身の大小さまざまな血管に傷害や動脈硬化を引き起こし、その結果もたらされるのが糖尿病合併症ですが、
・末梢神経(とくに両足)でおこる神経障害
・眼の網膜でおこる網膜症
・じん臓でおこる腎症
この3者は「糖尿病の3大合併症」と呼ばれ、日頃から発病や進展に注意を要するものです。「神経」「眼(網膜)」「じん臓」の頭文字をとって「しめじ」と覚えて頂ければと思います。
このほか、太い血管で動脈硬化などが起これば、
・壊疽(えそ)…下肢の動脈硬化症などによる
・脳血管障害…脳梗塞
・虚血性心疾患…心筋梗塞、狭心症
などの病気にもつながってしまいます(これらも頭文字で「えのき」と覚えましょう。)

糖尿病かどうかの診断は?

糖尿病の診断は血液検査(採血)で行います。主に行う検査項目は
・空腹時血糖(前夜から10時間以上絶食し、朝食前に採血)
・随時血糖(上記の条件以外)
・ヘモグロビンA1c(採血日からさかのぼって約1ヶ月間の血糖値を反映する値)
これらの他、必要に応じて
・経口ブドウ糖負荷検査(境界型か糖尿病型かを判別する場合などに施行)
・グルカゴン負荷検査(すい臓からのインスリン産生能力の評価などのために施行)
・抗体検査(1型か2型かの判別のために施行)
などの検査も行います。詳しくはまた改めてお話しようと思います。

糖尿病はどう治療するの?

糖尿病の治療の基本は何といっても以下の3つです。
①食事療法
②運動療法
③薬物療法
境界型、もしくは糖尿病のごく早期で合併症やその他の異常もない場合は、食事療法・運動療法を行いながら2~3か月毎に血糖などを検査するという形も取られますが、それ以外の場合は薬物も併用して治療を行っていきます。薬物治療には内服(飲み薬)、自己注射(インスリンやGLP-1受容体作動薬)があり、1型糖尿病の場合はインスリンを毎日注射で補うことが不可欠ですが、2型の場合は内服薬を1~3種程度、体内のインスリンが足りない場合はインスリン注射も併用します。
食事療法、運動療法については、「あれもダメ、これもダメ」ではなく、あなた自身が無理なく続けられる方法をとることが大事です。専門の療養指導士や管理栄養士からアドバイスを受けながら実践するようにしましょう。
糖尿病の治療薬には、足りないインスリンを補うインスリン注射のほかに、
・すい臓からのインスリン分泌を促す薬
・体内にあるインスリンの働きを良くする薬
・身体への糖の出入りを制御する薬
現在では週1回型の薬や、2種類の成分を1錠にまとめた配合錠など、実に様々な種類の糖尿病薬がありますが、ひとりひとりの病状にあわせて医師が処方します。

※ 最近、一部の週刊誌などで、糖尿病薬も含めた特定の医薬品を「飲んではいけない」などと否定する記事が見受けられます。薬を服用することで生じた副作用や弊害については、医療機関や製薬業者が補償などを行う責任を負っていますが、薬をやめたことで弊害(ときには死亡)が起こっても出版社や記者は責任を負わず、全てあなた自身の責任になってしまいます。あなた自身が正しい情報を入手したり、専門のお医者さんに相談するなどして、責任を負わない人たちの金儲けの道具にならないようにつとめて下さい。

糖尿病でとくに気を付けるべきことは?

一番気をつけるべきは前述した糖尿病合併症です。糖尿病自体がそうであるように、合併症も自覚症状がないうちに発症・進行してしまいます。
①糖尿病神経障害・足壊疽
糖尿病神経障害は最も早期にみられる合併症であり、足の知覚低下・知覚異常からはじまり、そこに動脈硬化による血行障害や免疫力低下による感染症が重なると糖尿病足壊疽につながってしまいます(年間約10,000本の足が糖尿病で失われています。)
対策として、まずは足の感覚異常(足裏に何かが貼りついたような感じなど)がないか、場合によっては神経伝導速度の検査なども行われますが、それ以上に重要なのが「定期的な足のチェック」です。感染などにつながりやすい巻き爪(陥入爪)やたこ(胼胝)などの処置や、水虫があればその治療など、かかりつけの病医院で定期的にチェックしてもらうなどしましょう。
②糖尿病網膜症
年間約3,000人が糖尿病で失明しており、若壮年者の失明原因の大多数を占めているのが糖尿病網膜症です。人間ドックなどで行われている眼底カメラでは初期の網膜症が見つけられない場合も多く、検査で異常なしと言われても、自覚症状が無くとも、最低でも年1回は眼科での眼底検査を受けましょう。
③糖尿病腎症
じん臓は、腰よりやや上側に左右1個ずつあり、血液中から老廃物をこし取って血液をきれいにするほか、体内の水分・電解質・酸アルカリのバランス調整を行っている臓器です。1つのじん臓の内部に約100万個ある、尿をつくる「ネフロン」と呼ばれる組織の中にある「糸球体(しきゅうたい)」が糖尿病によって障害され、腎臓の働きが低下するのが糖尿病腎症です。
糖尿病腎症の初期はアルブミンという小さなたんぱく質が尿中に増えはじめる状態ですが、やがて通常の検尿で(2+)以上の反応を呈するほど尿中たんぱくが増加し、それと同時に腎臓の機能を表す「GFR(eGFR)」という値が急速に低下していきます。最終的には腎臓の機能が廃絶し、人工透析を毎週3回程度行わなければ生きていけなくなります(人工透析になる原因として圧倒的に多いのが糖尿病腎症です。)
糖尿病腎症の有無や度合いを調べるために、尿検査(尿中アルブミンや尿たんぱく)、血液検査(eGFR)を定期的にチェックし、もしも腎症があれば早い段階から「高血糖」「高血圧」「高塩分」の「3つの高」を避けていかなくてはなりません。

糖尿病の治療や通院を中断してしまった方へ

近年行われた全国調査で、糖尿病患者の1割強にあたる人たちが通院や治療を中断していることがわかりました。調査によると40~50代の働きざかりの男性が最も通院中断しやすい傾向にあり、理由としては「忙しいから」「症状がないから」「治ったと思っているから」が主なものでした。
前述の通り、症状が無くとも糖尿病や合併症は確実に進行し、また2型糖尿病のように複数の要因が絡んでいる病気では、医学的な意味で「治癒」することは(少なくとも現代では)ありません。血糖コントロールが改善して服薬が必要なくなるケースも確かに存在しますが、それは糖尿病の治癒を意味するものではなく、引き続き2~3ヶ月ごとに血糖や尿糖を検査し、高血糖が再び生じていないかどうかを確認していく必要があります。
通院中断によって合併症が無自覚のうちに進行し、ときには心筋梗塞などである日突然死してしまう症例もあります。
もし貴方が、もしくは身近なひとが、糖尿病の通院を中断していたら、直ちに受診して検査を受けるようにして下さい。どの医療機関でも構いません。糖尿病やその合併症から、貴方や貴方のご家族・ご友人を守るために必要なことです。